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坐禅の目的

 

一般の方にとって坐禅は、例えばリフレッシュ法であったり、精神修養の術と考えている方もいらっしゃると思います。そこには目的があります。

 

しかし、本来坐禅は何か目的があってするものでなく、決して悟りを得ることをゴールとするために行うのではありません。

 

もとより悟り観というものは、現実世界の知識や感覚範囲により創造されうるイメージでしかありません。悟りに近づくのではないかと”創造イメージに自らを合わせていく”を基に坐禅を実践するのであれば、それは顕在的な創造範疇内の感覚でしかありません。

 

そして自らの悟りを目的として坐禅をするのであれば、仏教に於ける本質の目的である「安寧や幸福」に近づくどころか離れることとなります。

 

では

◎どのような観点で坐禅をしたらよいのでしょうか。

◎なぜ坐禅をするのでしょうか。

 

坐禅に関する祖録には、すべて「坐禅は安楽の法門である」という言葉が書かれています。安楽という言葉は、本来の仏教語では「精神的な苦しみや悩みが無く、身心的にも心地よく寛いでいる状態」という意味です。坐禅における「安楽の法門」というのは、坐禅中の姿勢、呼吸、意識が調っている状態のことをいいます。

 

安楽の法門としての坐禅とは「思うがままにまかせ、心地よさに導かれながら味わう実践」であり、観点としては「目的なく、頑張らず、誰とも比べない」ことが大切です。

 

〇「思うがままにまかせる」というのは、自分のからだ、こころを深く丁寧に観察することで、日常は気づいていない自らの感覚を自然に沸き出させ、その感覚と素直に向き合い、きちんと認めていくことです。するとそれまで以上に自分の心と身体を知り、今まで限界だと思っていた自分への感覚がより深く精細に感じられるようになります。

 

〇「心地よさに導かれ味わう」というのは、目的や頑張りに向かうのではなく、調うことで導かれていく心地よさをただ味わい続けることです。導かれるとは、誰かと比べるということではなく自分の心地よさの感覚を信じ丁寧に観察し続けることで、勝手に進むべき方向に変化していくということです。

 

自分への感覚がより深く精細に感じられるようになってくると、確かなる自分を深く信じることができるようになっていきます。すると身心の内から安らかさが生まれ、誰かに頼りすぎたり、何かの概念に影響されたりしにくくなります。それが「安楽」という状態なのです。

 

上記のように坐禅とは、誰にも代えられない私自身の心地よさの感覚を信じ丁寧に観察し続けることです。それは、坐禅中も心地よさの状態であり続けるということです。

 

ですので、安楽とは決して「いつか安楽の状態になるために今の坐禅を頑張る」というものではありませんし、「苦しく厳しい今を乗り越えれば安楽の境地にたどり着ける」ものでもないのです。

 

現代社会はどうしても成果主義で目標に向かい、自分でない何かに頼りがちです。そこでは「目的なく、頑張らず、誰とも比べない」という観点に不安を抱く方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 

しかし、「目的に向かうこと、自分でない何かに頼ること」は自分自身に対する信頼やいたわりからどうしても離れしまいます。坐禅とは「目的、頑張り、比較」に縛られている自分を解放することです。すると自分に対する信頼やいたわりが回復していきます。結果として、心地よく生きる在り方に気づくことができるようになり、心地よく生きる方法を自らの安楽の力で築いていくことができるようになるのです。

 

改めて坐禅とは、本質的にはリフレッシュ法や精神修養の術ではなく、さらには仕事の生産性を上げる「ため」のものではありません。またどれだけ坐禅すれば何かの境地に到達するというものでもありません。そのような考えを持って坐禅に臨むのならば、それらは決して十分な効果となって返ってきません。

 

だからといってそれらの目的や効果を否定しているのではありません。本来の坐禅とは、心と身体が安らかになることで、期せずして人生にとって善き効果が生まれてくるものであり、根本的な人生の在り方を変えていくものなのです。

 

坐禅とは本来

「目的を持ち、依存し、俯瞰し、フォーカスする」自分(我)が行う実践でなく、

「沸きあがるのを待ち・信じ・寄り添い・見守る」ことで無我が導かれる営みです。

 

無我が導かれることで結果として

〇生きるのが楽しくなっていきます。

〇身体と心が健康になっていきます。

〇世界が安らかで緩やかになっていきます。

 

坐禅は釈迦から脈々と続く、仏法の行です。

仏法を学ぶことは誓願・慈悲・智慧の本質を発現していくことです。

 

それが私と世界の安寧と幸福を築く基である、

「坐禅の目的」なのです。

 

2020.11.26

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